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疫学の限界と
新たな方法 |
疫学のもとは人のデータなのですが,先ほど説明した理由で,いくら数学の難しい統計処理技術を駆使しても,人のデータから量的関係を導き出す事は,容易なことではありません。 しかし科学の証明に使う方法は疫学だけではありません。 例えば,疫学調査に触発された沢山の学者が行った,動物実験があります。 これを活用する方法を考えてみましょう。 | |
動物実験
↓ 人の毒性評価 |
幸い,この種の解析に最も適した動物実験が過去に行われていました。 それは,ラットに排ガス粒子を吸入させ,数ヶ月後に解剖して,体内,特に肺周辺にできたがんの量を調べた研究報告です。 手間と時間とお金のかかる大変な実験で,今では貴重なデータです(Ishinishi et al. 1986; Iwai et al. 1997)。
さてこのデータはあくまでラットの物ですから,これを人の場合に変換しなければなりません。 ここでダイオキシンのリスク評価と似た方法,すなわち”標的臓器に着目した,毒性換算方法”を用います。(ダイオキシンのリスク評価はこちら。) ここでは標的臓器は”肺”です。 肺に蓄積する粒子の量と,肺ガンの量的関係をラットで調べ,その結果をもとに人の肺ガンリスクを算出してみます。 実際の計算には,様々な数値処理と複雑なコンピューター・シミュレーションが必要ですが,ここではあまり詳しい計算は述べません。 詳細に興味がある方は論文(文献1)をご覧下さい。 |
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ディーゼル粒子の
発がんリスク |
私が行った計算では,粒径37.5nmの粒子に着目した場合で,ラットから人への毒性換算をすると,大気中の粒子濃度が1mg/m3の場合,人では1億人に1人の肺ガン患者が出るという結果が出ます。
他の研究報告をみると,100人中2人(文献2),1万人に4人(文献3),10万人に2人(文献4)など,かなり高い危険性を見積もっています。 疫学ベースで計算すると,動物実験からの外挿に比べて100倍以上のハイ・リスクになる傾向があります。 環境省の平成16年の調査によれば,大気中の粒子(粒径が揃っていませんが)の量は平均36-46mg/m3ということです。 そうすると単純計算では,自動車排ガス粒子のせいで肺ガンにかかる人の割合は,日本でだいたい10万人中2〜4人程度です。 ちなみに日本全国で肺ガンが確認された人の割合は,1万人に2人程度です。 この中には,喫煙その他の原因で発症する人も含まれていますので,排ガス粒子の責任はだいたい全体の1/10というところでしょうか。 さて,皆さんはこの結果を見て,「ディーゼル排ガス粒子はやっぱりとても危険だ」と思われますか? それとも,「意外にリスクは低いな」と思われますか? |
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参考文献
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文献1:Maruyama et al.(2006)Inhal.Toxicol. 18 :1015-1025 文献2:Schwartz J. and Dockery D.W. (1992)Am.Rev.Respir.Dis. 145 :600-604 文献3:岩井ら(1992) 大気環境学会誌 27 :296-303 文献4:WHO (1996) EHC171 :231-286 |
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