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用語: フガシティ・モデル
フガシティとは?
 フガシティ(fugacity)は,”物質が,ある媒体(media)から外へ出る時の出やすさ”あるいは”別の媒体への出やすさ”と定義され,英語で"escaping tendency"と表現されます。
 このフガシティという概念は,
環境中の物質の移動を予測する”運命モデル(fate model)”や”多媒体モデル(multimedia model)”で使われます。D.Mackayという学者によって広められ,関連の本や論文が沢山発表されています(文献1〜3)。
 但しMackay自身はその著書の中で,フガシティの概念自体は,Lewisという学者によって1901年に既に提唱されていた,と書いています(
文献3)。
特 徴
 フガシティの第1の特徴は,仮想であることです。フガシティの存在を確かめたり,その大きさや強さを測ったりすることはできません。 フガシティには単位があり,それは圧力の単位と同じ,Pa(パスカル)です。
 複数の気体が混じった混合気体について,その1つの成分気体が持つ圧力を分圧と呼びますが,フガシティはこの分圧に似た概念と考えられます。
 
物質がある媒体から別の媒体へと逃げ出そうとする力=escaping tendencyは,確かに圧力のようなものと考えれば理解しやすいでしょう。 
説 明
 フガシティはなかなか理解が難しい概念ですが,例えば次のように考えてみます。
 隣り合った媒体1(体積V1)と媒体2(体積V2)があり,各媒体中に物質が濃度C1・C2で存在します。媒体中の物質量は,V * Cです。
 各媒体に押し込められた物質は,より広い居場所を求めて隣の媒体へ逃げます。逃げる力(escaping tendency)の強さは,境界面に対する各媒体の濃度差(ΔCi)に依存します。
 媒体からの物質移動速度,つまり単位時間における物質の移動量(N)は,escaping tendencyに接触面の面積(A)を掛けたものです。(式1)

 物質は,平衡状態になるまで2つの媒体間を往来します。平衡状態に向けての物質移動は,どの方向にどのくらい起こるのでしょうか。
 同じ媒体間なら,濃度C1,C2の平均値に向かって物質移動が起こり,媒体1と2の濃度が同じになったところで移動が終わります。
 しかし異なる媒体間での物質移動は,そう単純ではありません。それは,もともと物質の許容度が媒体ごとに異なるので,濃度差(ΔC)だけ判断できないからです。
 各媒体での物質の許容度がわからなければ,物質がどちらの媒体に向かって移動するかがわかりません。

 有機化学で,油と水と2層が重なった所に物質を入れると,物質は油の層と水の層とへ一定の分配比に従って分配されることが知られています。異なる媒体間でも同様に,物質はその媒体への,いわば許容比に従って存在します。
 フガシティ・モデルでは,濃度をフガシティ(f)とフガシティ容量fugacity capacity(Z)という2つの仮想概念で次のように表します。

     C = f * Z

 そうすると,媒体N1からの物質の移動速度は次の式2で表わされ,2つの媒体でのフガシティの差に依存して,物質の移動方向と量が解ることになります。

 平衡状態とは,各メディア間のフガシティが等しくなる時(f1-f2 = 0 )です。 こうすると物質の移動方向と量は,各媒体間のフガシティの差で決まるようになり,濃度はf*Zで求められます。
 
フガシティ容量Zは,物質とメディアのセットに固有の値です。 Zは物質の分配係数などから間接的に求めることができます。 フガシティは計測できませんが,非平衡状態ではバラバラの値をとり,平衡状態では同じ値になる,と理解すればよいでしょう。
 こんな事をする意味がどこにあるのか,と疑問に思うかもしれませんが,こうすると,平衡状態の濃度が予測しやすくなるのです。

 環境中の物質動態を予測するときに,一番知りたいのは,長時間たって平衡状態に落ち着いた頃,汚染物質はどこにどのくらいあるのか,ということです。
 土壌はどのくらい汚染されるのか。河川や湖沼はどのくらい汚染されるのか。魚や鳥などの野生生物は?農産物の汚染はあるのか? 

 最終的には汚染がどのくらい深刻であるか知るために,運命モデルや多媒体モデルを使って,物質の未来の状態を予測しなければならないのですが,その時にフガシティ・モデルは便利な概念であるといえます。

 フガシティ理論は,下記のD.Mackayらの本や論文に詳しく説明されています。 運命モデルを使いたい人は,ぜひ一度これらの文献を読んでみて下さい。

参考文献
文献1: Mackay D, Paterson S. (1981) Environ. Sci. Technol. 15 :1006-1014
文献2: Mackay D, Paterson S, Cheung B, Neely WB (1985) Chemosphere 14 :335-374
文献3: "Multimedia Environmental Models: the fugacity approach" by Donald Mackay, CRC Press.

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